2019年2月20日水曜日

仕切り直し【Do-Over】

PTSDと関わりが深い感情で、最も多く見られるものといえば、やはり【無力感】になるだろう。


虐待を受けている間も、そして虐待から逃れた後も、あなたは自分の無力さを嫌というほど思い知らされたのではないだろうか。
「どうあがいてみても、私にはこの状況は変えられない」といった具合に。


あいつと出会ってからのあなたは
心奪われて
裏切られて
利用されて
挙句の果てに捨てられたよね。


避けようにも避ける方法など存在しなかった。
あなたができることなど何一つなかった。


低空飛行を続けていた自尊心が底を打った、まさにその時。
どこからともなくサイコパスが現れ、残された自尊心の最後の一片まで全てかっさらって去って行った...。
状況説明をするならば、こんな感じになるだろうか。


あいつのせいで、ヒステリックに泣き叫ぶ姿まで世間にさらして大恥かいたよね。
あちらにとっては願ったりかなったりの展開となった。


もちろん、奴のあなたに対する態度が最悪だったことは今更言うまでもなかろう。
貧乏くじを引いて泣きを見るのは常にあなたの方だった。
なのに、「勝ち星」はいつもあちらの頭上に輝いているかのように見える。
なぜなんだ。
そんなの不公平じゃないか。
(この件については本書の後半でさらに詳しく触れるつもりだ。)


で、途中であなたははっと気が付く。
「私、勝ち負けゲームの対戦相手としか見られていなかったんだ」
と。
その瞬間、圧倒的な無力感が雪崩のようにあなたを襲う。
あれはまさに、息も止まるかと思うほどの衝撃だった。


「お願いだから」
「どうかそれだけはやめて」
ひたすら低姿勢で懇願ばかりしていたあの頃の自分。
情けない、みじめな自分の姿がしょっちゅう脳裏に浮かんで来ては、今なおあなたを苦しめる。
もうわかるだろう。
あいつ、あなたが悶え苦しむ姿を見ては、ひそかな快楽を味わっていたんだよ。


「頭おかしいよ!」
「嫉妬心強すぎじゃない?」
当時はそうした奴からの非難にいちいちへこみ、傷ついてばかりいた。
だが、今ならはっきりわかる。
いや、自分は決して間違っていなかった、と。
...二股三股かけての不貞行為を続けていた卑怯者。
それは他ならぬあいつ自身のことだった。
あなたの側には落ち度など無かった。


そこであなたは考える。

「もし、あいつがもう一度だけ連絡取って来たら、今度は
私があいつを無視しまくってやるんだ。私がやられたのと全く同じやり方でもって


ここではそうした作業を【仕切り直し(a do-over)】と呼ぶことにしよう。


圧倒的な無力感に押し潰され、倒れてしまった魂。
こういう方法にでも頼らない限り、自分を立て直し、回復へと向かって歩き出すのはかなり難しいのかもしれないね。
あくまでも僕の仮説だけれども。


誰もが持っている、想像力。
実は、この想像力には僕らが考える以上に大きな力が秘められているのだそうだ。
「これ以上心が傷つけられるのはイヤだ!」といった場面に遭遇した時、想像力はそれ以上黙っているわけにはいかない。
目を覚まし、活発に動き始める。
それは大切なあなたをさらなるダメージから守ろうとする自然のはたらきなんだよ。


だから、嫌な記憶が戻ってきて、いつまでも振り払うことができずに困っているようならば、想像力に一仕事させてみてはどうだろう。
好きなだけいろいろ想像してみればいいよ。
そして、自分の中だけであいつとの関係を「仕切り直し」するのだ。
まぁ、脳の厄介な部分がしゃしゃり出てきては「それ、所詮【作り話】でしょ?ホントのことじゃないよね?」と野暮なツッコミを入れてくるだろうけどね。
そこは各自、上手にスルーしてもらいたいな。


要するに、「あれは本当にあったことだった」と自分の中で一度決めたら、ひたすらそう思い込め、というだけのこと。
そのうち、話の一つ一つがまるで【本当にあったこと】であるかのように感じられてくるはずだ。


「どうか許して...」
涙で顔をぐしょぐしょにしながらあいつの足元にひざまずいた、だって?
そんなこと、多分実際には起こっていないと思うよ。
あいつの悪口があまりにもゲス過ぎて、逆に笑い飛ばした、ってことならあっただろうけど。


平身低頭してあいつにペコペコ謝りまくった。
果たして本当にそうだったっけ?
あいつに面と向かって「さっさと謝罪しろ!」って逆にあなたの方から要求したんじゃなかったかな。


あいつに無視・だんまりを決められたのが辛くて、泣いてばかりいた。
...いや、そういうことは起こっていないよ。
むしろ逆じゃないかな?
あなたの方でムカつくあいつをガン無視してやった。
確かそうだったよね?


これ以上は無いってほどに残酷なやり方でポイ捨てされた。
いや、それもちょっと違う。
きっぱりと別れを告げ、二度と話すまいと決めて奴と絶縁したのはあなただ。
真の勇者は、あなた。
あいつじゃない。


僕がここでやろうとしているのは、あなたが経験させられた屈辱という屈辱の全場面をとことん解体する作業なんだよね。
一旦全てをバラバラにした後で、想像力を駆使して奴とあなたとの力関係を再構成し直す。それが最終的なゴールだ。


這いつくばり、必死の形相でもがき苦しむあなたの姿を見下ろしながら、あいつが不気味にほくそ笑んでいる。
そんなおぞましい場面の記憶、もうよみがえらせなくったっていいじゃないか。
二度と思い出さなくたっていいんだよ。


では、これから先、一体どんなことをしていけばいいのだろうか。


あなたは既にサイコパス/病んだ精神の持ち主に関してはたくさんのことを学んだはずだよね?
今度はその豊富な知識でもって自らをしっかりと武装し、身を守らなくてはいけないよ。
自分が強者であるかのように考えるんだ。
強者なのだから、強者にふさわしい立ち居振る舞いを身に付けよう。
元々はあいつから仕掛けてきたゲームだけれども、このまま冷静に闘いを進め、最後に全戦全勝という栄誉を手にする。
そういう結末へと持ち込まなければならない。


僕個人としては、虐待がらみの人間関係から回復しつつある人の場合、想像力に頼ってでも自分を立て直しするのはごく自然で健全なことだと思っている。
脳内で同じトラウマを何度も何度も再生し、追体験で苦しむよりは、想像力の力を借りてでも速やかに傷から回復する方が、本人のためにもなるのではなかろうか。


だって思い出してもごらんよ。
かつてのあなたは、豊かな想像力を駆使することであいつの虐待行為ですら記憶からきれいに消し去っていたよね?
脱価値化が進み、扱われ方がますますぞんざいになっていった時期に至ってもなお、あいつの「長所」を美化しようと、随分話を膨らませていたよね?
(そもそもあいつに長所なんてあったっけ?)


せっかく豊かな想像力に恵まれているのだから、今ここで使わなきゃ絶対損だよ。
頭の中に鮮やかなイメージを描いて、自分を変えていこう。
辛い状況からはさっさと脱け出そうじゃないか。
持っているものは大いに利用したらいいよ。


大丈夫。
時が経てば、全ての過去を冷静に検証できるようになるはずだから。
恥も外聞も忘れて取り乱し、ショックに打ちひしがれ、不安で心が一時も休まることなく、半ば狂気と呼べる域に達していた。
そんな過去も確かにあったよ。
でも、あなたは当時の自分を恥じる必要なんてこれっぽっちも無いんだ。
堂々としていればそれでいい。


本当のあなたは、優しい心の持ち主のはずなんだ。
だけど、あそこまで異常な状況へと放り込まれてしまっては、さすがのあなただってそう冷静に振舞ってばかりはいられないだろう。


あいつは、あなたに備わっていた素晴らしい性質や才能をことごとく搾取し、台無しにした。
しかも何一つまともなフォローもせずに突然立ち去った。
これだけの仕打ちを受けた人に対し、暴発するな、落ち着け、なんて言う人がいたらそっちの方がむしろクレイジーじゃないだろうか?
そんなひどい目に遭わされたら、誤作動起こして醜態の一つや二つさらすのも仕方ないじゃないか。
僕だったらそう思うけどね。


このような結論へとたどり着くまでには、僕自身もかなりの時間を必要とした。
そうした時間を経た今、僕はかつての自分・ジャクソン君を、敬意のような、称賛のような、そんな不思議な感情とともに見つめ直している。


あのような極限状況にあってもなお、ジャクソン君は精一杯頑張っていた。
力の限りを尽くしていた。自分にできることは何でもやって。
だから僕はあの頃の自分を心からほめたたえてやりたいんだ。
多分、その気持ちは死ぬまでずっと変わらないと思う。


もちろん、最初からあんなひどい目に遭わずに済ませられるのであれば、きっとそれがベストなんだろうね。
もしもタイムマシンがあって時間を遡ることができるとしたら、過去の自分に会って、助け舟を出してやりたい。
実は、そんな気持ちも僕の中にはちょっぴりあるんだ。


...だけどね、そんなことして一体何になるというんだ?


そういう形での【仕切り直し(do-over)】は、やったところで全く無意味だ。


今の僕にとっても、過去の僕にとっても、何一つプラスになりはしないだろうね。


2019年2月13日水曜日

【コラム】真実は勝つ

サイコパス。
ソシオパス。
自己愛性パーソナリティ障害者。


そういった類の訳あり連中と一度でも遭遇した人ならばわかるよね。
あれはまるで「純度100%の悪」に触れたような体験だった。
同じように感じた人は大勢いるんじゃないかな。


奴らとの関係が一段落したからといっても、まだまだ油断するわけにはいかない。
絶え間ない不安、自分への不信感、どこまで行っても光が見えない状況。
そうした迷惑な置き土産に悩まされ、身動きすらできぬもどかしい日々がこの先あなたを待ち受ける。


生きる力もすっかり枯れ果ててしまった。
以前ならウキウキしたはずの場面に出会っても、今は少しも心が動かない。
感情が麻痺してしまったかのようだ。


共感力あふれる人々が良心を持たぬ奴らの毒牙にかかると、被るダメージはここまでひどいものとなってしまうのだ。


こちら側は生き生きとした魂の持ち主。
あちら側には魂が無く、抜け殻も同然の存在。
この両者がぶつかって生じた反応、あまりにも激烈過ぎた。
あなたが描いていた未来像も計画も、全て白紙状態となってしまった。


だけど、長い目で見ればこれは間違い無く人生最大級のチャンスとなるはずだ。
今はまだとても想像できないだろうけどね。


この危機を無事乗り越えることができれば、あなたは世界をあるがままの姿で見られるようになる。
あるがままの自分も認めてやれるようになる。
嘘や飾りでごまかされることなしに【真実】をはっきりと見極められるようになる。


そうなれば、少しずつ生きる力も戻ってくるだろう。
魂の奥底から自然と力が湧き起こり、あなたはもっと強くなる。
よそからの借り物ではない、内側から生じる力があなたのものとなる。
もう二度と他人の手で破壊されることのない、確かな力が。



Psychopath Free (Expanded Edition): Recovering from Emotionally Abusive Relationships With Narcissists, Sociopaths, and Other Toxic People
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毎回違った個性豊かなファッションや、ご自身の手によるイラストをふんだんに盛り込んだ動画でもって楽しませてくれるのが、アメリカ人YouTuberのSacha Slone(サシャ・スローン)さん。
問題のある【自己愛】の病を抱えた人達からどうやって身を守ったらよいのかを、ユーモアたっぷりに、明るくチャキチャキと語ってくれています。
コメント欄に寄せられたたくさんの書き込みも非常に参考になりますね。なんたって【被害者ならではの生の声】ですから。


陽気で前向き!なSachaさんのYouTubeチャンネルはこちら。
https://www.youtube.com/channel/UCL6rGSlLAsX0dC3hgus8R6g


こちらの動画:
【隠れ自己愛(Covert Narcissists)の騙しの公式:1ポジティブ→1ネガティブ】も、目からウロコの内容でした!



(動画要旨)



「私、被害者なんです~」
「僕、犠牲者です~」
「なんでいつも自分ばかりこんな目に遭わなきゃならないの?」
「カワイソな私/僕...」


そうやって自分からアピールしつつ、わざわざ不幸な身の上話を打ち明けに来るような人。
あなたの周囲にも一人や二人はいるでしょう?








それ、カモ物色中の【隠れ自己愛】と見てほぼOKですから! 
あなたが同情しやすいお人よし(=騙しやすい)人なのか、利用できそうなのかをチェックしてるんですよ。 
不幸話をしても大丈夫かどうか、ふるいにかけているんですよ!


ただ、あの手の人々の場合、その【自分カワイソ😢】な不幸自慢を会話の中にしれっと滑り込ませるやり方が実に巧妙でしてね。
本当に困ったものです。






あまりにもさりげないやり方で不幸話を投入してくるので、この手の人々に免疫の無い人だとなかなか気付くことができず、逃げ遅れてしまうのですよ。


うっかり同情心でも起こそうものなら、あっという間にあちらの罠にはまってしまい、最後には痛い目に遭う、...と。



実は、彼らがカモを引っ掛けようと狙っている時にする身の上話には、あるきまった公式があるのです。

それは、






【アゲて⤴、落とす⤵】


というパターンを繰り返す、というもの。
(これに加えて、表情やボディーランゲージも微妙に変化させます。)


典型的な【隠れ自己愛話法】は、こんな感じですね。


1.まずは相手がポジティブ&元気になれるような話をする。
(聞く人をいい気分にさせておく。おだてたり、ほめたりする。)
聞き手の気持ち・場の雰囲気を「アゲる

2.聞き手の気持ちがアゲ調子で安定したところで、すかさず【伏し目がち】【自信無さげな曇り顔】といった、微妙な表情の変化でもって【自分カワイソ】な話をさりげなく投入! 
話をふっと「落とす⤵」!


例:「ガーデニングを頑張ってステキなお庭を作るのに成功したの。ぜひうちに遊びに来てちょうだいね!」

「職場のみんなにもとっても良くしてもらってるよ。いい感じさ!」 


アゲる⤴️!


→急に悲し気な顔になる。
「カワイソな私」の役割になり切る。
「実は今、お金無いんだ」
「スマホのスクリーン割っちゃった...新しいスマホは買えないし。どうしよう...」


ふっと落とす⤵️!

  

他人、特に共感力あふれるカモ候補の感情をアゲて、そして落とす。
これを何度も繰り返し、相手の同情心に訴え、徐々に冷静さ(理性的な判断力)を失わせていき、最後には欲しいものを奪う。騙す。
それが隠れ自己愛(Covert Narcissists)の常套手段です。


彼らは


【アゲて⤴️、ふっと落とす⤵️】


という話法、そして表情を急変させるテクニックとを組み合わせれば、自分にとって有利な展開へと持ち込める、と経験から知っているんですよ。







そもそも、共感力豊かな人は目の前にいる人の悲しげな顔を見るのが大の苦手なんですよね。
その弱みに付け込み、同情心を巧みに刺激すれば、それほど疑いを持たれずにうまーく自分のペースへと引き込める。




隠れ自己愛はそうしたからくりを熟知しているからこそ、性懲りもなくずっと公式を使い続けるのです。



どうか奴らのそんな姑息な手口に引っ掛からないでください。


間違ってもお金なんて渡しちゃダメです。


まぁ、その人が本当に気の毒で、放って置けないような状況にあるとあなたが思うのであれば、話は別ですが。


でも、肝心なのは「助けた後の相手の態度」です。
そこだけはしっかりと観察してくださいね。


時間・お金を提供したあなたに対し、ろくろくお礼もしない。
感謝している様子すら見せない。
やってもらって当然、といった感じで偉そうにふんぞり返っている。



そういった残念な態度が確認できたら、その人とは今後一切関わらない方が無難でしょうね。



最初っからお人よしのあなたを騙して、利用する目的で近付いただけなんですから。


【顕示型(見た目にわかりやすい)】の自己愛だったら、「今すぐ助けて!早く!!!」といった大げさな困り方をしますから、早期の発見も、そこから逃げるのも、それ程難しくはありません。


ところが、【隠れ(Covert)】型・潜在陰湿型自己愛性パーソナリティを相手にしている場合は違います。
その本性に気付くまでには相当の時間を要するかもしれません。


でも、その正体をすぐに見抜くことができなかったとしても、別にあなたがおかしいわけではないのですよ。

よくあることなのです。



Stay strong! (気持ちを強く持って!)


2019年2月1日金曜日

複雑性PTSD

複雑性PTSD

症状:知覚麻痺、社会から隔絶されたように感じる、フラッシュバック(再体験症状)、特定の記憶がきっかけとなって発症、恋愛やセックスへの嫌悪感、「自分の中に二人いる」ような感覚、社会的に孤立。





感じる必要のある感情は余すところなく味わい尽くした。
今は身も心もボロボロ。
全精力を使い果たしたかのように消耗してしまった。


まぁ、何だかんだ言ってはみたが、所詮僕らも生身の人間でしかない。
怒りと鬱とを抱え込んだままで一生終えろ、だって?
そんなの真っ平ごめんだよ。救いも何もあったもんじゃない。


ある程度は本音をぶちまけるのも必要だろう。「健全」の枠内に留まっていられる限りは、ね。
だけど度を越せばそれもまた病的になり、中毒化する。
そうなると、後はただの反芻行為でしかない。


もうわかってきたはずだ。
あそこまでひどい虐待行為に出た人間とよりを戻すことなど、今後絶対にあり得ない、ってこと。
そう。
真っ黒な過去はどうあがいたところで真っ白にはならない。
無理だよ、そんなの。




となると、次には一体何が起こるのだろう?
「自分は虐待の被害者となった」
この辛い現実と折り合いを付けながら、元のような生活に戻るにはどうしたらいいだろう?
過度にちやほやされ、もてはやされることにすっかり慣らされた後にいきなり訪れたのは、平凡な日々の連続だった。
どうすればそこに楽しみを見出すことができるだろう?


今いる世界が前いた世界と同じだなんて、とても信じられない。
生気が抜け落ちてしまったかのようだ。
周囲にあるのはつまらぬ景色ばかり。
夢も希望も全く視界に入って来ない...。


きっかけはほんの些細な事だった。
激しく心をかき乱され、冷静さを失ったあまり、あなたは予想外の過剰反応に出る。
これには相手もびっくりだ。
本当ならば楽しいひとときとなるはずだった。
気になっていた人との念願のデートだったかもしれない。
あるいは旧友との久々の再会だったかもしれない。
なのに、あなたがとげとげしい態度に出たことで、雰囲気は一気に悪化。
何とも後味の悪い時間となってしまった...。
そのようなほろ苦い経験をした人、少なくないんじゃないかな。


「この人も、自分の思い通りに私を操ろうとしているんじゃないの?」
「やだな、また危ない奴に引っ掛かったらどうしよう」


あなたの心に敷かれてしまった厳戒態勢。
どうやらこの先しばらくの間は解除されそうにもない。


たかが冗談、と笑い飛ばすことだってできたはず。
だが、あなたはどうしても過剰な反応をせずにはいられなかった。



原因は明らかだ。
「恐怖心」が悪さをしたんだよ。
この恐怖心という奴、あなたの心の奥底にどっかと腰を据えていて、当分の間退去するつもりは無いようだ。
全くもって癪に障るよね。


恐怖心に乗っ取られたあなたは、見る人会う人誰もが自分に牙をむき、襲いかかろうとしているんじゃないか、との被害妄想に囚われ、ますます警戒の度合いを高める。
こんな調子ではおちおち街歩きもできやしない。



それでもなんとか力を振り絞り、家を出て、誰かに会いに行くところにまでこぎつけた、としよう。
あなたは早速、相手の口から出てくる言葉の一つ一つをいちいち深読みし始める。
不要に話をこじらせ、ややこしい方向へと持っていきたがる。
やがて相手との間には気まずい空気が漂い始める。


するとあなたは
「あ、この人とはもう終わりだな」
との極論へと走るんだ。
自分の中のモヤモヤを早く片付けたくて仕方がないんだね。
だから、特に明確な理由も無いのに、口実を次々とでっち上げて「ハイ、関係終了」との流れへと持って行きたがる。


もう少し後になれば、友を切り捨てる寸前だった当時の自分がどれほどおかしくなっていたかがわかるだろう。
後悔、自責の念、恥といった負の感情に激しく苛まれるだろう。


この時期には他人に対して抱く印象や人物評価もコロコロと変わりやすいものだ。
全肯定から全否定への瞬間移動なんて当たり前。
昨日の友は今日の敵、である。


ああ、確か前にもそういうことあったよ。
そう。例のサイコパスの正体が判明した時、だ。
あなたの中で、一瞬のうちにあいつが「100%シロ」から「100%クロ」へとひっくり返っただろう?
覚えているだろう?


あそこまで強烈な恐怖体験、長い一生の中でもそうそう何度もお目にかかることは無いよね。
あれ以降、あなたは見聞きする物事や人々についての全情報を「恐怖」というフィルターを通してキャッチするようになってしまった。
何もかもが「恐怖色」に染められた状態で自分の中に入って来るようになった。
不思議だよね。例のサイコパスと距離を置くようになってから、もう随分と経つはずなのに。


「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」を発症する人は、何も退役軍人や誘拐事件の被害者ばかりとは限らない。
よく誤解されることだから、ここではっきりさせよう。
あなた自身が今、そうした状況の真っ只中にある、という事実が何よりの証拠さ。
今のあなたは、以下に挙げるPTSDの診断基準を全てクリアしているよ。


1.心的外傷が残るような出来事にさらされたか。
Yes。愛した人からの虐待という経験はトラウマ(心的外傷)となってあなたの心の中に深い傷跡を残した。当然、その後の人生にも大きな影響を与えていくはずだ。

2.心的外傷となる経験がしつこく繰り返されたか。
Yes。あなたは、いわゆる「ツンデレ」「鞭(むち)と飴(あめ)」、つまり冷遇期と蜜月期とが交互に繰り返されるパターンの虐待を相手から受けていたよね。何度も何度も。

3.執拗な回避、感情麻痺が見られるか。
Yes。あいつの言動があまりにも理不尽過ぎたために、辻褄合わせや苦し紛れの解釈といった作業があなたの中では半ば日常化していた。そのため、回避、感情の鈍麻化といった心的メカニズムを用いる機会が自然と増えてしまった。

4.発症前には見られなかった覚醒亢進状態【*訳注】がずっと続いているか。
Yes。「感情は後から遅れてやって来る」の段階からこのような症状を自覚するようになった人は多いんじゃないかな。
最終的にその高まりは不安や恐れといった感情へと転化されることで表に出てきたよね。
【過去記事】「感情は後から遅れてやって来る」 
https://sayonara-psychopath.blogspot.com/2018/12/blog-post.html
【*訳注:気持ち・感覚の高ぶり。原文は”arousal”。心理的・身体面での両方で平常時と比べて高ぶった状態にある、という意味と解釈しました。コトバンク/大辞林第三版の「亢進」の項、ご参照ください。https://kotobank.jp/word/%E4%BA%A2%E9%80%B2-495836 】

5.症状が一ヶ月以上続いている。
Yes。普通、サバイバーが立ち直り、再び誰かを愛せるようになるまでにはおよそ1年~2年の期間を要するとのことだ。

6.弱体化が甚だしい
今、あなたはどんな気持ちでいるだろうか?調子はどうだい? 
実際のところは「弱体化」なんて生易しいものじゃない、よね?




これでわかってもらえただろうか。
あの体験を境に、あなたの脳内では化学物質の状態が激的に変化してしまったんだ。
もし、心の専門家の助けを借りるのであれば、こうした厄介な脳の仕組みまできちんと理解している人を選んだ方がいいと思う。
せっかく調子が上向いて来たというのに、突然脳が暴走し、それまでの努力が全て水の泡に...なんてことにならないためにも、ね。


メンタルを病んだからって、恥ずかしがることなんて全くないさ。
この先どうしよう、なんてくよくよしている暇があったら、その時間を「自分に合った心の専門家」を探し出す作業に費やした方がよっぽどいいよ。


個人的な話になるが、僕は「対人間の虐待(relationship abuse)」を専門とする心理療法家にかかることができたおかげで、非常に大きな成果を上げることができた。
この女性療法家と過ごした時間は、僕のその後の人生を大きく左右するような、かけがえのない経験となった。
今、穏やかな気持ちでこの本を書いていられるのは彼女のおかげだ。
彼女がずっと僕を支え続けてくれたからこそ、今日の平和な日々がある。
そう言っても決して大げさではないと思う。



ただ、気を付けておかなければいけないこともある。
心を扱う人々の中には「良い専門家」ももちろん大勢いる。
ただ、「ダメな専門家」も少なくないんだ。見た目には同じ「専門家」の看板を堂々と掲げているから厄介なのだが。
まぁ、これは何も心理職に限っての問題じゃないけどね。



「この先生、どうかな」
実際に顔を合わせてみて気に入ったら、続けてその専門家のところに通えばいい。
気に入らなければそれっきり、でもOKだよ。
あくまでも決定権はあなたの側にあるんだ。
別に心の問題を扱うプロはその人一人しかいないってわけじゃない。
どうもしっくり来ないと思ったら、他の先生のところに行ったって一向に構わないんだよ。


信頼すべきは自分の直感/直観(intuition)だ。
心の専門家選びに関しては、中途半端に妥協しちゃいけない、と僕は思っている。
「この先生がいい!」
心からそう言えるような専門家に出会えたら、ぜひともその縁は大事にしてもらいたいな。