自己愛的な「スピリチュアル指導者」を見抜けなかった私


リンダ・マーティネス・ルーウィ Linda Martinez-Lewi, Ph. D. (臨床心理学博士)



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Linda Martinez-Lewi
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自分の正体を包み隠すことにかけては抜群の腕前を発揮する。
それが「隠れ自己愛人間(covert narcissist)」だ。
一度その魔の手に捕まってしまったら最後、逃れるのは極めて難しい。
以下にお話しするのは、私自身の身に起こった実話である。




当時、私は瞑想をどのように進めていけば良いのかわからず、ちょっとした壁にぶつかっていた。
何冊か瞑想に関する本を読んでみた結果、「やはり先生について、直接指導を受けた方がいいだろう。」という結論へと至った。


早速調べてみたところ、経歴もちゃんとしていて、「その世界でもトップクラスの指導者」との評価を得ている、良さそうな先生が一人見つかった。資格も、指導歴も、問題無し。
週一回のグループ瞑想会にかかる費用もそれほど高額ではなかったため、私は参加を決めた。



それが「デブラ(Debra)」先生との出会いだった。
深い知識を持ち、生徒一人一人に配慮し、親切で、人の気持ちに寄り添ってくれて、なおかつ指導も上手。
私はデブラ先生の素晴らしさに深い感銘を受けた。


瞑想を始めてからもう数十年になるという、デブラ先生
ベテランの瞑想実践家だけあって、日々の修行を怠るようなことはなかった。
クラスではいつも生徒の一人一人に関心を注いでくれた。
瞑想を深めるための技術習得に関しては、デブラ先生のクラスから実に多くのことを学ばせてもらったと思う。



数年後。
久々に瞑想を習いたくなって、再度デブラ先生のグループクラスに戻ることにした私は、しばらくぶりで教室へと顔を出した。
ところが行ってみて、思わず目を疑ってしまった。
何もかもが変わってしまっていたからだ。
先生も、先生が主宰する団体の雰囲気も。



まず、受講費用がとんでもなく高騰していた。
しかも、参加者に対して、デブラ先生と来たらきわめてそっけない態度で接するのみ。
一人一人の参加者がいかにしてより有意義な時間を過ごせるか、といったことよりはむしろ、どうやったら一人でも多くの生徒を指導者養成コースへと誘導し、金をむしり取れるか、ということが気になって仕方がないようであった。
デブラ先生は、まるで頭に血がカーーーッと上ってしまったかのように「成功」の二文字に取りつかれてしまっていた。




全く、何もかもが変わってしまった。
私が最初に瞑想を習った時とは大違いである。
弟子たちを安い給料でこき使って儲けた金を一枚、二枚...と勘定しては、一人ほくそ笑む。
そんなデブラ先生の姿が目に浮かんでくるかのようだった。
しかも、瞑想教師養成コースと来たら、受講料はわずか2年の間に何と3倍にも膨れ上がっていた。ぼったくりも同然だ。
受講期間も6週間に短縮されたものの、かかる費用は数千ドルにも上るとか。 ただただ呆れるしかなかった。


デブラ先生自身がクラスに出てきて直接生徒の指導にあたる時間も日を追うごとに少しずつ減っていった。
今や、講習会の大部分が先生の自宅を会場として行われていた。
デブラ先生にとって、最小限度の負担で複数のトレーニングを同時進行で開催するためには、そうするのがベストだったからだ。



先生はまるで何物かに憑依されたかの如く、しゃかしゃかと休みなく動き続けた。
「指導」なんて名ばかり。
実体はスカスカ、中身なんてほとんど無いに等しい、というお粗末な講習が次々と連発されていった。



授業以外の場所で先生が口を開けば、飛び出すのはもっぱら「あれを買った、これを手に入れた」といった自慢話ばかり。
新しい洋服、行ってきた旅行先、今狙っている不動産...といった具合に。
私が最初に出会った2年前と比べたら、先生はまるで別人のようになってしまった。
この時点で私はデブラ先生を見限って、別の先生の下で瞑想を習うことにした。




以前のデブラ先生は正直で、思いやりがあって、生徒からの金で私腹を肥やそうだなんて夢にも思わないような、至極まともな人だった。
少なくとも、私はそう信じていたのだが。




今じゃ、すっかりふんぞり返って偉そうにしているデブラ先生。
...まぁ、彼女の後をアヒルの雛のように目を輝かせながら追って来る熱心な信奉者が後を絶たないとすれば、天狗になるのも無理はないのだろうけど。


もし先生に今、一対一の個人指導を頼んだら、きっととんでもない金額をふっかけてくるのは確実だ。態度もぶっきらぼうで、注意力も散漫、な授業となることは見なくたってわかる。
「瞑想を学んで、心安らかになって、落ち着いた人間になりたい」との気持ちを抱き、教室の門を叩く生徒たちが悩みを相談したところで、先生が耳を傾けるわけがない。
大体、そんな余裕なんてあるわけないじゃないの、こっちは忙しいんだから、とでも言いたげな様子しかしていないのだから。
とにかく、先生はすっかり変わってしまわれた。


デブラ先生は、遅咲きの自己愛性人間、という稀に見るケースだ。


先生が自分の生い立ちについて語っていたのを今も覚えている。


両親はいつも仕事でヘトヘトに疲れ切っていた。
兄弟も多かったため、家は常に極貧状態にあったという。必要最低限のものを調達するだけで精一杯だったらしい。
そんな家庭に育ったデブラ先生は、両親のどちらとも心を通わせることはできなかった。
物質的に不自由。なおかつ、「父親不在」。
それが彼女の幼少期であった。


大勢の兄弟の真ん中っ子だったデブラ先生。
スポットライトを浴びたり、キラッと輝いたりするようなチャンスには全くと言ってよいほど恵まれない、寂しい子供時代だったという。




親元を離れてからは瞑想修行に熱心に励んだデブラ先生。その甲斐あって、間もなく「瞑想を教えることが私の天職だ」との気付きに到達できたという。
ただ、自分の内側、そして外側につきまとう底無しの欠乏感と向き合う、というしんどい作業には、ずっと蓋をし続けて、「見て見ないふり」をやり続けてしまったらしい。



仕事の上で揺るぎない、ホンモノの成功をようやく手にしようとしていた、そんな時だったのに。
デブラ先生は物欲追求への道へと進路を変えてしまった。
スピリチュアル指導者としての人生を生きずに、「指導者のイメージ」を生きるだけの人間へと変貌してしまった。


実は、デブラ先生と出会う以前にも、私は「隠れ自己愛」の人間、つまりスピリチュアル探求の道にひたすら精進して自己愛の部分をひた隠しにしているような人間には会ったことがある。
そういった経験もあって、私は「いや、先生はフェイクなんかじゃない、先生はまともだ」と信じ続けてしまった。



だが、結局デブラ先生もまた、【仮面】の下に本性をひた隠しにしていた人であった。
手の込んだ、説得力に満ちた、きわめて上手く作られた【仮面】のその下に。



「隠れ自己愛」という存在は、それほど見抜くのが難しい。


私の場合、2年という空白期間があったことが幸いしたのか、先生の【仮面】にはいち早く気付くことができた。
頭にあるのは、金儲けや洋服ショッピングのことだけ。
言うこと為すこと全てにへこへこと付き従ってくれるような取り巻き連中をはべらせて、そこでチヤホヤされてさえいれば至極ご満悦というもの...。



結局、デブラ先生もその程度の人でしかなかったのだ。




デブラ先生についてのこの一件は、私にとって大変貴重な経験となった。


どれだけ訓練を積んでいようと【※注】、その時外に表れている姿がどうであろうと、自己愛人間の嘘くさいスピリチュアルなイメージ、偽の思いやり、本心とは裏腹の「謙虚さ」(敬虔で、霊性が高いという外向きのイメージにもれなく付いてくる。)といった演出に、人はいとも簡単に騙されてしまう。
実際、そのような話は珍しくないのだ。


【※注:筆者は臨床心理学者で、現職心理療法家。自己愛性パーソナリティ障害(Narcissistic personality disorder)の被害者へのカウンセリングが専門。】



たとえあなたが達人級の自己愛人間を見破ることに失敗したとしても、どうかご自分のことを責めたりはしないでいただきたい。
絶対に。



苦い経験をして、学ぶべきことを学んだら、また前に向かって歩き出すとしよう。




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