スピ系自己愛~肥大するエゴ【前編】

「スピリチュアル・ナルシシズム(スピ系自己愛)と、肥大するエゴ」
 
ダグラス・トッド Douglas Todd/バンクーバー・サン紙コラムニスト
(原文はこちら。2015年3月7日の掲載。)


「スピリチュアル・ナルシシズム(スピ系自己愛)にむしばまれた人間にとっては、霊性探究の道も単なる自我の肥大を目指すための方便でしかない本来は、自分自身を謙虚な人間へと変えていくための旅路であるべきなのに。」

こう語ったのは、精神科医ジェラルド・メイ。
著書「意志と霊」(Will and Spirit)からの引用である。

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...もちろん、そんなもの、自分になど当てはまるわけがない。


どうもスピリチュアル・ナルシシズム(霊的ナルシシズム)の話となると、誰もが「自分には関係ない」と思いがちである。


読者諸氏もご存知のはずだ。


自分は既に高いレベルの霊的成長を成し遂げたのだから、とばかりにお高く留まっている、例の連中を。
われわれのような凡俗よりも数段上にいると思い込んでるらしい、あの連中を。 


この頃、「スピリチュアル・ナルシシスト(スピ系自己愛)」を目にする機会が随分と増えたように思う。

大言壮語ばかりするキリスト教のテレビ伝道師。

イスラム国(ISIL)の狂信者。

いわゆるニューエイジ業界の「グル」。

自信過剰気味のヨガ教師。

モルモン教信者を率いる「教長」。

西海岸のエコ・コンシャスなスピリチュアル戦士。

自己満足の世界に浸る、象牙の塔の仏教徒...

など、枚挙に暇がないほどだ。


「スピリチュアル・ナルシシズム(スピ系自己愛)の汚染を経験しなかった宗教伝統・思想体系など、いまだかつて存在したためしが無い。」


「意志と霊(原題:Will and Spirit)」の作者で、精神科医のジェラルド・メイはそう言い切る。
ちなみに、ジェラルド・メイの異母兄には、彼自身よりも幾分か知名度の高い実存主義心理学者・ロロ・メイ(主要著書に「愛と意志」ほか)がいる。


現代の心理学者が定義する、人口のおよそ2%を占める「自己愛性人格障害」の患者と、ジェラルド・メイが定義するスピリチュアル・ナルシシズム(スピ系自己愛)に冒された人々は別物だ、ということを最初に断っておきたい。
自己愛性人格障害の患者は、何をするにしてもまず自分の利益しか考えない。それゆえ、きわめて悪質かつ破壊的な存在となり得る。


これに対し、スピリチュアル・ナルシシズム(スピ系自己愛)に冒された人々ははるかに目立たぬ姿をしており、しかも日常の至るところに見られる。



認めたくはないが、われわれの誰もがスピリチュアル・ナルシシズム(スピ系自己愛)に少なくとも一度はかぶれる可能性がある。
表立ってはっきりと現れることは無いかもしれないが、それでもやはり冒される危険はあるのだ。
いわゆる「霊的な進歩」を成し遂げた時などは、特に。


「簡単に言うならば、スピリチュアル・ナルシシズム(スピ系自己愛)とは、霊的な分野での修行、実践、洞察を無意識のうちに利用して、本来引き下げるべき自分自身の値打ちを逆に釣り上げようとする試みだ。」

と、メイは「意志と霊」で書いている。


メイ曰く、スピリチュアル・ナルシシズム(スピ系自己愛)は、われわれが「徳高い人間になろう」と試み始めたその瞬間に、エゴの隙間からわれわれの内部へと巧妙に忍び込んでくるのだという。


ワシントンD.C.のシェイレム研究所【※注①】に移り、さまざまな教派の霊的指導者たちを監督・指導する役職に就く以前のメイは、医師として主に依存症の患者を担当していた。

【※注①:キリスト教を中心にした諸宗教の瞑想による修行を重んじる、民間の研究・教育機関。ジェラルド・メイは創設メンバーの一人。】

「スピリチュアル・ナルシシズム(スピ系自己愛)にむしばまれた人間にとっては、霊性探究の道も単なる自我の肥大を目指すための方便でしかない。
本来は、自分自身を謙虚な人間へと変えていくための旅路であるはずなのに。」

と、メイは著書「意志と霊」(Will and Spirit)で語る。



メイの定義に従えば、スピリチュアル・ナルシシズム(スピ系自己愛)というものが、どれほど狡猾に、そしてわれわれのすぐそばの至るところに息を殺して潜んでいるかが、読者諸氏にもお分かりいただけるかと思う。


自信過剰が行き過ぎて鼻につくようなタイプや、支配欲の強すぎるタイプであるとは、必ずしも限らないのがこうした連中の困ったところだ。

例えば、
イスラム国の自称・カリフ(最高権威者)アブー・バクル・アル=バグダーディー

ベニー・ヒン、トッド・ベントリー、ジムとタミーのバカ―夫妻といったテレビ伝道師【※注②】

過激派指導者のデビッド・コレシュ【※注③】や、

文鮮明【※注④】

といった、この世の終わりを声高に訴える指導者たちに加えて、

「ザ・シークレット」 の作者であるロンダ・バーン【※注⑤】や、

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アンドリュー・コーエン【※注⑥】、といった誰が見てもわかりやすいタイプだとは限らない。
それが、このスピリチュアル・ナルシシスト(スピ系自己愛)の怖いところである。

【※注②:以下、ウィキペディアの記述より。
『主にアメリカ合衆国で形成された、新しいテクノロジーを媒体にした宣教形態で、「テレビ伝道師」(テレビ放送を使った伝道師で「テレヴァンジェリスト(英語: Televangelist)」)とも呼ばれる。 1970年代半ば以降にはケーブルテレビが普及し、福音派のテレビ伝道師が活躍するようになった。福音派は有料放送を積極的に活用するようになり、高い視聴率と多くの寄付を集めた[2] 従来の教会での伝道と違い、生の肉声で伝える必要が無く、テレビさえあれば何処でも出演・傍受出来ることから、ラジオ以上の広範な影響力を持つに至った。』】

【※注③:デビッド・コレシュ。アメリカのキリスト教系新宗教の一つである、セブンスデーアドベンティストから分派したブランチ・ダビディアン の教祖の座に就任(1990年代)。警察の教団本部への捜査に武力で抵抗し、銃撃戦となった結果、教団の建物が爆発、炎上。教祖コレシュは80人の信者を道連れに自殺した。】

【※注④:朝鮮半島起源のキリスト教系新宗教である、いわゆる「統一教会」の創始者・教祖。故人。詳しくはこちらを参照されたい。】

【※注⑤:いわゆる「引き寄せの法則」を世界的な大流行にまで押し上げた張本人で、オーストラリア人TVプロデューサー。「引き寄せ」の元ネタとされるジェリー&エスター・ヒックス夫妻とは映画「ザ・シークレット」大ヒット後に権利関係で対立、その後絶縁。】

【※注⑥ パキスタン生まれのグル・通称パパジ(シュリー・プンジャジ)の教えをアメリカ人向きにアレンジして教えたスピリチュアル指導者。一部ではカルトリーダー的人物と目され、警戒されている。】

スピリチュアル・ナルシシズム(スピ系自己愛)は、そうした非常にわかりやすい人々とは違って、一見するだけでは特におかしいようには見えない。霊性探究の道を歩む人々ならばほとんど全員が遭遇しているはず、と言っていいだろう。


(僕はここで「スピリチュアル/霊的な」という言葉を、自分なりの意味を見つけ出そうとするあらゆる努力に関わるもの、という意味で使っている。だから、世俗的な知恵や、無神論者の知恵も、拡大解釈を施した上で全て「スピリチュアル」の範疇に含めている。)


スピリチュアルな学びで、急速な進歩を遂げた。

哲学の問題に対し、明察を得ることができた。

そんな時は、どんな人でもナルシシズム(自己愛)の餌食となりやすいものだ。


たとえば、他の人よりも先に、自分だけが上のレベルに到達した、とする。
その瞬間、思わずこんなセリフが出ないだろうか。

「おっ、自分、なかなかやるじゃないか」
(つづく) 
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