沈黙。
本来のあなたの良さを少しずつ蝕(むしば)み、じわじわと傷めつけていくのが、サイコパス人間だ。
この沈黙、奴らにとっては実に使える凶器となり得る。
一見しただけではわかりにくいが、沈黙は「あなたへのお仕置き」という、れっきとしたあなたへの攻撃だ。
表立ってあなたを操る手間暇をかけるまでもない。
ただだんまりを決め込めばそれでいいのだから。
そうすれば、あなたは奴らの意図にかなうように自然と軌道修正していってくれるだろうから。
相手からぱったりと連絡が途絶えた時。
共感力の豊かな人々ほど、焦りもあって、自分を傷めつける方向へと走りがちになる。
「私、何か悪いことしたかな」
「やっぱり自分のせいだろうか」と、自らを責める。
そのような自責的な考え方ばかりしていると、本来のあなたらしさは次第に「削ぎ落」ちていく。
しくじりを恐れて、言いたいことも言えずに萎縮する一方となる。
沈黙を貫き、他人を罰する。
これはれっきとした虐待、それも冷酷非情な虐待行為だ。
被害者は、自分の直観/直感、そしてこれまで真実だと見なしてきたあらゆる物事に対しての宣戦布告を迫られる。
気が付けば、今闘うべき敵は他ならぬ自分自身、という奇妙な立場に被害者は置かれている。
サイコパス人間は、あなたに元々備わっていた良い部分が蝕まれ、充分に弱体化するまでじっと待ち続ける。
もうこいつは逃げないだろうよ、と確信し、絶好のタイミングが到来するのを待って、一気にトドメを刺しに来るんだよ。
何も自分がわざわざ手を下さなくったって、あなたの方で虐待の続きは全部やり遂げてくれるはず。後は黙っていても、どうせあなたは勝手に自滅するだろうから。
...そう考えているはずだ。
あいつらの悪だくみは、主にSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス。FacebookやInstagramが代表例。)が舞台となって行われる。
「何か裏がありそう」と、読む人の心に引っ掛かるような投稿をあちこちにばら撒いて、あなたの被害妄想をさかんに煽り立てるんだ。
付き合い始めてからの日々を振り返り、記憶を掘り起こそうとすればするほど、後悔と自責の念に苛まれていくあなた。
「どうしてあんな反応に出てしまったのだろう。」
「あんな風に思うなんて。バカだったな、私。」
といった具合に。
真夜中にふと目が覚めた。
「ひょっとして、あの人から連絡来てるかも」
はやる気持ちで、あなたは枕元のケータイへと手を伸ばす。
新着0件。
で、そのままFacebookを開く。
するとそこには、何と、あなたの大切な「あの人」が、友人や元彼女(元彼氏)を相手に、チャットで大いに盛り上がっている、という驚きの光景が繰り広げられていた。
「忙しくて、会えない」は嘘だった。
あなたのことは「スルーしたい」というだけだったのだ。
もちろん、「あの人」があなた一人を相手に延々と、連日連夜おしゃべりに付き合ってくれることは、今後も期待できなさそうだ。
それは、あなたも充分承知している。
付き合い始めて間もない頃は、1時間に1回というすごいペースでメッセージが送られてきた、という時期もあったけどね。
今思うと、夢のような日々だった。
犯罪者、それも執行猶予中の犯罪者になったみたい。
あなたはそう感じているのではないだろうか。
何の罪を犯したのかも一切知らされないままに放置されているのだから。
受動攻撃的【注】な振る舞いが抑えられない人もいるだろう。
どうして急に冷たくなったの、せめて連絡ぐらいくれてもいいじゃない、といった相手への不満を長々とメールに書いてはみるものの、送信はできない。
ずっと下書きフォルダに置いたままだ。
【注:Wikipedia 「受動攻撃行動」の項より。
「受動的攻撃行動(じゅどうてきこうげきこうどう、英語: Passive-aggressive behavior)は、怒りを直接的には表現せず、緘黙や義務のサボタージュ、あるいは抑うつを呈して相手を困らせるなど、意識的無意識的にかかわらず後ろに引くことで他者に反抗する(攻撃する)行動である。」
「もう、私たち、終わりにしない?」
こちらから提案してみようと思い立ってはみるものの、その決心は数時間と持たない。
心を平らかにし、沈着冷静でいなくっちゃいけない。
おかしいことなんて何一つ無い、という姿勢を貫かなくては。
そうすれば、自分を無視し続けるサイコパス人間を出しぬき、優位に立てるはず。
「重たくつきまとう彼女(彼氏)」という印象を与えられずに済む...。
だが、このゲームにおいては、きまって奴らの側に軍配が上がる。
そもそも、あいつらはあなたの関心なんかもはや必要じゃなくなったんだよ。
ーーー既に、新たなる人材を捕獲した可能性が高いのだから。
そう。
サイコパスな交際相手があなたを無視し始めた、何日間も音沙汰が無い。それは「新ターゲットを見つけた」時だと考えて構わない。
仮に、まだこれといった人材を捕まえていないとすれば、あいつらの全努力は依然としてあなた一人へと一極集中しているはずだから。
今やあなたは単なる障害物へと成り下がってしまった。
エキサイティングで目新しい人材をを見つけた今となっては、あなたから寄せられる感情など、ただ鬱陶しいだけ。目の前のホットな恋愛活劇を鈍らせるスピードバンプ(減速帯)のように、邪魔物でしかない。
まぁ、その辺に関しても、あいつらから口を割ることはないだろうが。
だから当然、あなたが必死に送り続けるメッセージの数々も、一応目を通しはするが、リプライはしないはずだ。
そのうち、「しつこい」「頭おかしい」「重たい」と難癖つけて、あなたへのバッシングを本格的に開始してくるだろう。
電話での対話や直接会って話すことを要求しても断固拒否してくるに違いない。
もっとも、完全にあちら側のペースで事を運べるのであれば、応じることだって無きにしもあらず、だけどね。
もはや、あなたへの虐待は火を見るよりも明らかだ。
奴らはあなたのことを軽蔑している。
それは間違い無い。
だが、ここまでひどく関係が悪化していても、奴らの方からあなたを捨てるつもりは、無い。
少なくとも、この時点では、まだ。
どうやら、お楽しみは温存しておきたいらしい。
この先訪れるであろう「しかるべき時」のために。