2019年2月1日金曜日

複雑性PTSD

複雑性PTSD

症状:知覚麻痺、社会から隔絶されたように感じる、フラッシュバック(再体験症状)、特定の記憶がきっかけとなって発症、恋愛やセックスへの嫌悪感、「自分の中に二人いる」ような感覚、社会的に孤立。





感じる必要のある感情は余すところなく味わい尽くした。
今は身も心もボロボロ。
全精力を使い果たしたかのように消耗してしまった。


まぁ、何だかんだ言ってはみたが、所詮僕らも生身の人間でしかない。
怒りと鬱とを抱え込んだままで一生終えろ、だって?
そんなの真っ平ごめんだよ。救いも何もあったもんじゃない。


ある程度は本音をぶちまけるのも必要だろう。「健全」の枠内に留まっていられる限りは、ね。
だけど度を越せばそれもまた病的になり、中毒化する。
そうなると、後はただの反芻行為でしかない。


もうわかってきたはずだ。
あそこまでひどい虐待行為に出た人間とよりを戻すことなど、今後絶対にあり得ない、ってこと。
そう。
真っ黒な過去はどうあがいたところで真っ白にはならない。
無理だよ、そんなの。




となると、次には一体何が起こるのだろう?
「自分は虐待の被害者となった」
この辛い現実と折り合いを付けながら、元のような生活に戻るにはどうしたらいいだろう?
過度にちやほやされ、もてはやされることにすっかり慣らされた後にいきなり訪れたのは、平凡な日々の連続だった。
どうすればそこに楽しみを見出すことができるだろう?


今いる世界が前いた世界と同じだなんて、とても信じられない。
生気が抜け落ちてしまったかのようだ。
周囲にあるのはつまらぬ景色ばかり。
夢も希望も全く視界に入って来ない...。


きっかけはほんの些細な事だった。
激しく心をかき乱され、冷静さを失ったあまり、あなたは予想外の過剰反応に出る。
これには相手もびっくりだ。
本当ならば楽しいひとときとなるはずだった。
気になっていた人との念願のデートだったかもしれない。
あるいは旧友との久々の再会だったかもしれない。
なのに、あなたがとげとげしい態度に出たことで、雰囲気は一気に悪化。
何とも後味の悪い時間となってしまった...。
そのようなほろ苦い経験をした人、少なくないんじゃないかな。


「この人も、自分の思い通りに私を操ろうとしているんじゃないの?」
「やだな、また危ない奴に引っ掛かったらどうしよう」


あなたの心に敷かれてしまった厳戒態勢。
どうやらこの先しばらくの間は解除されそうにもない。


たかが冗談、と笑い飛ばすことだってできたはず。
だが、あなたはどうしても過剰な反応をせずにはいられなかった。



原因は明らかだ。
「恐怖心」が悪さをしたんだよ。
この恐怖心という奴、あなたの心の奥底にどっかと腰を据えていて、当分の間退去するつもりは無いようだ。
全くもって癪に障るよね。


恐怖心に乗っ取られたあなたは、見る人会う人誰もが自分に牙をむき、襲いかかろうとしているんじゃないか、との被害妄想に囚われ、ますます警戒の度合いを高める。
こんな調子ではおちおち街歩きもできやしない。



それでもなんとか力を振り絞り、家を出て、誰かに会いに行くところにまでこぎつけた、としよう。
あなたは早速、相手の口から出てくる言葉の一つ一つをいちいち深読みし始める。
不要に話をこじらせ、ややこしい方向へと持っていきたがる。
やがて相手との間には気まずい空気が漂い始める。


するとあなたは
「あ、この人とはもう終わりだな」
との極論へと走るんだ。
自分の中のモヤモヤを早く片付けたくて仕方がないんだね。
だから、特に明確な理由も無いのに、口実を次々とでっち上げて「ハイ、関係終了」との流れへと持って行きたがる。


もう少し後になれば、友を切り捨てる寸前だった当時の自分がどれほどおかしくなっていたかがわかるだろう。
後悔、自責の念、恥といった負の感情に激しく苛まれるだろう。


この時期には他人に対して抱く印象や人物評価もコロコロと変わりやすいものだ。
全肯定から全否定への瞬間移動なんて当たり前。
昨日の友は今日の敵、である。


ああ、確か前にもそういうことあったよ。
そう。例のサイコパスの正体が判明した時、だ。
あなたの中で、一瞬のうちにあいつが「100%シロ」から「100%クロ」へとひっくり返っただろう?
覚えているだろう?


あそこまで強烈な恐怖体験、長い一生の中でもそうそう何度もお目にかかることは無いよね。
あれ以降、あなたは見聞きする物事や人々についての全情報を「恐怖」というフィルターを通してキャッチするようになってしまった。
何もかもが「恐怖色」に染められた状態で自分の中に入って来るようになった。
不思議だよね。例のサイコパスと距離を置くようになってから、もう随分と経つはずなのに。


「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」を発症する人は、何も退役軍人や誘拐事件の被害者ばかりとは限らない。
よく誤解されることだから、ここではっきりさせよう。
あなた自身が今、そうした状況の真っ只中にある、という事実が何よりの証拠さ。
今のあなたは、以下に挙げるPTSDの診断基準を全てクリアしているよ。


1.心的外傷が残るような出来事にさらされたか。
Yes。愛した人からの虐待という経験はトラウマ(心的外傷)となってあなたの心の中に深い傷跡を残した。当然、その後の人生にも大きな影響を与えていくはずだ。

2.心的外傷となる経験がしつこく繰り返されたか。
Yes。あなたは、いわゆる「ツンデレ」「鞭(むち)と飴(あめ)」、つまり冷遇期と蜜月期とが交互に繰り返されるパターンの虐待を相手から受けていたよね。何度も何度も。

3.執拗な回避、感情麻痺が見られるか。
Yes。あいつの言動があまりにも理不尽過ぎたために、辻褄合わせや苦し紛れの解釈といった作業があなたの中では半ば日常化していた。そのため、回避、感情の鈍麻化といった心的メカニズムを用いる機会が自然と増えてしまった。

4.発症前には見られなかった覚醒亢進状態【*訳注】がずっと続いているか。
Yes。「感情は後から遅れてやって来る」の段階からこのような症状を自覚するようになった人は多いんじゃないかな。
最終的にその高まりは不安や恐れといった感情へと転化されることで表に出てきたよね。
【過去記事】「感情は後から遅れてやって来る」 
https://sayonara-psychopath.blogspot.com/2018/12/blog-post.html
【*訳注:気持ち・感覚の高ぶり。原文は”arousal”。心理的・身体面での両方で平常時と比べて高ぶった状態にある、という意味と解釈しました。コトバンク/大辞林第三版の「亢進」の項、ご参照ください。https://kotobank.jp/word/%E4%BA%A2%E9%80%B2-495836 】

5.症状が一ヶ月以上続いている。
Yes。普通、サバイバーが立ち直り、再び誰かを愛せるようになるまでにはおよそ1年~2年の期間を要するとのことだ。

6.弱体化が甚だしい
今、あなたはどんな気持ちでいるだろうか?調子はどうだい? 
実際のところは「弱体化」なんて生易しいものじゃない、よね?




これでわかってもらえただろうか。
あの体験を境に、あなたの脳内では化学物質の状態が激的に変化してしまったんだ。
もし、心の専門家の助けを借りるのであれば、こうした厄介な脳の仕組みまできちんと理解している人を選んだ方がいいと思う。
せっかく調子が上向いて来たというのに、突然脳が暴走し、それまでの努力が全て水の泡に...なんてことにならないためにも、ね。


メンタルを病んだからって、恥ずかしがることなんて全くないさ。
この先どうしよう、なんてくよくよしている暇があったら、その時間を「自分に合った心の専門家」を探し出す作業に費やした方がよっぽどいいよ。


個人的な話になるが、僕は「対人間の虐待(relationship abuse)」を専門とする心理療法家にかかることができたおかげで、非常に大きな成果を上げることができた。
この女性療法家と過ごした時間は、僕のその後の人生を大きく左右するような、かけがえのない経験となった。
今、穏やかな気持ちでこの本を書いていられるのは彼女のおかげだ。
彼女がずっと僕を支え続けてくれたからこそ、今日の平和な日々がある。
そう言っても決して大げさではないと思う。



ただ、気を付けておかなければいけないこともある。
心を扱う人々の中には「良い専門家」ももちろん大勢いる。
ただ、「ダメな専門家」も少なくないんだ。見た目には同じ「専門家」の看板を堂々と掲げているから厄介なのだが。
まぁ、これは何も心理職に限っての問題じゃないけどね。



「この先生、どうかな」
実際に顔を合わせてみて気に入ったら、続けてその専門家のところに通えばいい。
気に入らなければそれっきり、でもOKだよ。
あくまでも決定権はあなたの側にあるんだ。
別に心の問題を扱うプロはその人一人しかいないってわけじゃない。
どうもしっくり来ないと思ったら、他の先生のところに行ったって一向に構わないんだよ。


信頼すべきは自分の直感/直観(intuition)だ。
心の専門家選びに関しては、中途半端に妥協しちゃいけない、と僕は思っている。
「この先生がいい!」
心からそう言えるような専門家に出会えたら、ぜひともその縁は大事にしてもらいたいな。

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